
毎年夏が近づくと、多くの製造業や重要インフラ事業者では、猛暑や電力需要の増加に備えた対策が進められる。空調設備の稼働状況の確認、非常用電源の点検、生産計画の見直しなど、設備停止リスクへの備えは年々重要性を増しています。
しかし、こうした夏特有の環境変化は、設備の可用性だけでなく、OT(Operational Technology:制御・運用技術)環境のセキュリティリスクにも影響を及ぼす。本記事では、猛暑や電力対策が引き起こしうるセキュリティ上の盲点を整理し、設備トラブルとサイバーインシデントを見分けるために何が必要かを解説します。
夏特有の環境変化がOT環境へ与える影響
猛暑が設備へ与える負荷
近年、夏季の気温上昇は工場やプラントの設備稼働に影響を及ぼしています。高温・多湿な環境は、制御盤や産業用PC、センサー類などOT機器の熱負荷を高め、誤作動や処理遅延、突発的な停止につながることがある。特に制御盤内部は熱がこもりやすく、想定以上の温度上昇によって基板や電子部品の劣化が早まることも知られている。こうした設備を安定稼働させるため、多くの現場では空調設備への依存度が一段と高マリます。
空調が制御室やサーバー室の温度管理に果たす役割は大きく、その稼働状況自体が安定操業を左右する要素になりつつある。空調設備自体も夏季は高負荷での連続稼働を強いられるため、点検や予防保全の重要性が例年以上に増す時期でもあります。
可用性が最優先となるOT環境
工場や発電所、上下水道といった重要インフラの制御システムは、一度停止すると生産ライン全体の停止や、社会インフラの提供停止に直結する。そのため、OT環境ではIT環境以上に「止めない」ことが最優先の価値観として根付いています。
一般に、IT環境では情報の機密性を守ることが優先される一方、OT環境では稼働を止めないこと、すなわち可用性の維持が最優先される傾向にあるとされ、この価値観の違いが両者のセキュリティ対策の考え方にも表れています。裏を返せば、設備停止は生産機会の損失だけでなく、取引先への供給責任や社会的信用にも影響を及ぼしかねない。夏季はこの「止められない」というプレッシャーが一年の中でも特に高まる時期といえ、現場では設備トラブルの兆候にことのほか敏感にならざるを得ないのではなでしょうか。
設備障害だけではない、見落としたくないサイバーリスク
障害対応中こそ注意が必要
可用性を最優先する現場では、設備に異常が発生した際、まず復旧を急ぐことが自然な判断となる。原因調査よりも早期の運転再開が優先され、ログの保全や通信状況の確認が後回しになるケースは少なくない。夏季は特に、猛暑による設備負荷の高まりを背景に「暑さのせいだろう」という先入観が働きやすく、原因の特定を急ぐあまり、通信ログの保全といった手順が省略されてしまうことも起こり得ます。しかし、この「まず復旧」を急ぐプロセスの中にこそ、見落としのリスクが潜んでいる。設備障害として処理された事象の背後に、ネットワークやシステムの異常が存在していないかを確認する視点を持つことが重要である。
一度電源を再投入し、ログを上書きしてしまえば、後から原因を遡って調査することは難しくなります。
「異常=故障」と決めつけない
一般に、制御システムへの不正なアクセスや通信の異常は、センサー値の乱れや機器の応答遅延など、設備故障と似た症状として現れることがあると指摘されている。だからといって、発生した異常のすべてをサイバー攻撃と疑う必要はない。
むしろ重要なのは、「設備故障だろう」という思い込みだけで完結させず、通信ログや接続状況といった観点からも並行して確認する体制を持つことである。
設備故障とサイバーインシデントは原因も対応も異なるため、どちらか一方に安易に決めつけず、切り分けて調査する姿勢が求められる。そのためには、設備保全部門とIT・セキュリティ部門が普段から連携し、異常発生時にどちらの観点からも確認できる体制をあらかじめ整えておくことが望ましいです。
夏の省エネ・電力対策で増える接続リスク
エネルギー管理の高度化
電力需要が高まる夏季は、多くの企業でエネルギー管理の高度化が進められる。電力監視システムの導入、クラウドサービスを活用したエネルギーデータの一元管理、遠隔地からの設備監視、老朽化した設備の更新などがその代表例である。これらはいずれも、電力コストの最適化や運用効率の向上に貢献する取り組みであり、電力需給が逼迫しやすい夏季には特に導入や強化が進みやすい分野といえる。
増える接続経路が新たなリスクになる
一方で、これらの取り組みは同時に、ITネットワークとOTネットワークの連携や、外部クラウドサービスとの接続、遠隔保守のための外部接続など、新たな接続経路を生み出す。接続経路が増えるということは、それだけ攻撃対象領域(アタックサーフェス、攻撃者が侵入や攻撃の足がかりとして利用しうる範囲のこと)が広がることを意味する。特に、遠隔監視やクラウド連携のために一時的に開放した通信経路が、目的を終えた後も閉じられずに残っているケースには注意が必要である。導入時にはセキュリティが確保されていても、運用担当者の異動や設備更新のたびに設定が見直されず、当初の想定とは異なる状態になっていることも起こりうる。省エネ・電力対策を進める際には、利便性の向上と並行して、どの経路にどのような権限を与えるか、適切なアクセス制御を検討することが欠かせない。
夏本番前に確認したいOTセキュリティチェックリスト
夏の本格化を前に、以下のような観点から自社のOT環境を確認しておきたい。
チェック項目 | 概要 |
|---|---|
IT/OT間の通信経路は適切に管理されているか | ITネットワークとOTネットワークの境界にどのような通信が許可されているか、改めて棚卸しする。 |
不要な外部接続が存在しないか | 過去のメンテナンスや検証のために開放したまま放置されている接続がないか確認する。 |
リモートアクセスは適切に管理されているか | 遠隔保守用のアクセス経路について、利用者・利用範囲・認証方法が適切に管理されているか見直す。 |
OT資産を正しく把握できているか | 稼働中の制御機器やネットワーク機器を網羅的に把握し、管理外の機器が存在していないか確認する。 |
異常通信を継続的に監視できているか | 通信の異常を一時点だけでなく、継続的に検知できる仕組みがあるか確認する。 |
設備障害とサイバーインシデントを判断できる体制があるか | 異常発生時に、設備担当とセキュリティ担当が連携し、原因を切り分けられる体制が整っているか確認する。 |
まとめ
猛暑や電力需要増加への備えは、空調や非常用電源といった設備面の対策だけで完結するものではない。
事業継続の観点からは、設備トラブルとサイバーリスクの双方を視野に入れた対策が欠かせない。
そのために有効なのが、IT/OTネットワークの可視化と継続的な監視である。自社のネットワークにどのような機器が接続され、どのような通信が行われているかを把握できていれば、異常が発生した際にも設備故障かサイバーインシデントかを冷静に切り分け、早期対応につなげることができる。
NTT Security Japanでは、OT環境の資産・通信の可視化から、侵入・拡大防止のための対策、そして継続的な監視体制の構築まで、STEP1(現状把握)、STEP2(侵入・拡大防止)、STEP3(工場監視)という段階的なアプローチでOTセキュリティ強化を支援しています。
夏本番を迎える前に、自社のOT環境が「止まらない」だけでなく「安全に止められる」状態にあるか、専門家とともに確認してみてはいいかがでしょうか


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