
MSSとは?企業のセキュリティ運用を支援するアウトソーシングサービス
MSS(Managed Security Service)とは、ファイアウォールやWAF、IDS/IPS(不正侵入検知・防御システム)などのセキュリティ機器の運用・監視を、専門事業者が代行するアウトソーシングサービスです。24時間365日の監視体制、ログ分析、インシデント対応などを提供し、企業のセキュリティ運用負荷を大幅に軽減します。
MSSが必要とされる背景:脅威の高度化と人材不足
総務省の「情報通信白書令和6年版」によると、サイバー攻撃のトラフィックも増加傾向で、2023年は過去最高を記録しています。このように脅威が増大し続ける一方で、セキュリティ人材の確保や24時間体制の維持が大きな課題となってきます。この「脅威の増大」と「運用リソース不足」という2つの背景から、MSSの導入が急速に進んでいます。

国内のMSS市場動向と企業の活用状況
市場調査会社のIMARCグループによると、日本のマネージドサービス市場は2024年の165億米ドルから、2033年には369億米ドルに達すると予測されています 。このデータはMSS単体の市場規模ではありませんが、企業がIT運用やセキュリティ業務を外部に委託する流れが加速していることを示しており、MSSの導入が進んでいる背景の一端を示すものといえるでしょう。

MSSとMDR・SIEM・SOCとの違い
MSSを検討する際、MDR、SIEM、SOCといった他のセキュリティ関連用語との違いを理解することが重要です。それぞれの目的・役割が異なるため、自社の課題に合ったサービスを選択しましょう。
サービス | 主な目的・役割 |
---|---|
MSS | 予防・運用管理:セキュリティ機器の監視・運用を代行し、インシデント発生を未然に防ぐ |
MDR | 検知・対応:侵入後の脅威を検知、迅速に対応・復旧する |
SIEM | ログ分析基盤(ツール):ログを収集・分析し、脅威の兆候を可視化する |
SOC | 監視・分析組織(機能):セキュリティ監視・分析を行う専門組織 |
MSSとMDRの違い
MSSはファイアウォールやIDS/IPSなどのセキュリティ機器の運用・監視を通じてインシデントの「予防」に重点を置くサービスです。MDR(Managed Detection and Response)は侵入後の「検知と対応」に特化したサービスであり、EDRなどのツールを活用して未知の脅威を発見し、封じ込めや復旧支援までを一貫して行います。
関連記事:【5分でわかる】MDRとMSSの違いとは?自社に最適なセキュリティサービスの選び方
MSSとSIEMの違い
SIEM(Security Information and Event Management)は、ログを収集・分析して脅威を可視化するための「ツール」または「プラットフォーム」です。一方、MSSはSIEMを含む複数のセキュリティ機器を専門家が運用・監視する「サービス」であり、SIEMの導入・運用代行を含む場合があります。
MSSとSOCの違い
SOC(Security Operation Center)は、セキュリティ監視を行う「組織」または「機能」を指します。企業が自社内にSOCを構築(内製SOC)する場合もあれば、MSS事業者が提供するサービスの一部としてSOC機能を利用する場合もあります。MSSは、SOC機能を提供するアウトソーシングサービスの一形態と捉えることができます。
MSSはどんな企業に向いているか
MSSは、特定の課題を抱える企業にとって特に有効なソリューションです。以下のようなケースではMSSの導入が大きな効果が期待できます。
セキュリティ機器の運用リソースが不足している企業
「情報システム部門が他の業務と兼務しており、セキュリティ運用に十分な時間を割けない」「24時間365日の監視体制を構築できない」といったリソース不足は、多くの企業に共通した課題です。MSSを活用することで、専門家チームに運用を委託でき、社内担当者の負担を大幅に軽減できます。
幅広いセキュリティ対策を効率的に実施したい企業
ファイアウォール、WAF、IPS/IDS、プロキシなど、導入しているセキュリティ機器が多岐にわたる場合、それぞれの機器を適切に運用し、ログを横断的に分析するには高いスキルが求められます。MSSは、これらの多様な機器を一元的に監視・運用し、効率的で網羅的なセキュリティ体制の構築を支援します。
専門知識が求められるセキュリティ機器を導入している企業
最新のセキュリティ機器は高機能である一方、その性能を最大限に引き出すには高度な専門知識と継続的なチューニングが不可欠です。MSSを利用することで、専門家の知見を活用し、導入した機器の価値を最大化できます。
MSS導入によるメリット・デメリット
MSSを導入することは、単なる業務のアウトソーシングに留まりません。セキュリティレベルの向上はもちろん、コストの最適化やビジネスの安定化といった、企業経営に直結する具体的な価値をもたらします。
運用負荷の軽減
- 24時間365日体制での監視やアラート対応
常時監視により、異常を即座に検知・対応。夜間や休日の対応も不要になります。 - 日々のログ確認
専門家がログを分析し、重要な兆候を見逃さずに抽出。担当者の確認作業を大幅に削減します。 - レポート作成
定期的なレポートにより、経営層や監査対応にも活用可能。可視化された情報で意思決定を支援します。
セキュリティレベルの向上
- セキュリティ専門家の知見を活用
最新の脅威情報や攻撃手法に基づいた適切な対応が可能。自社だけでは難しい高度な防御策を実現します。 - 脅威の早期発見と対応
膨大なログの中から真の脅威を見極め、迅速に対処。被害の最小化に貢献します。
コストの最適化
- 固定費から変動費へ
自社で24時間体制のセキュリティ専門チームを雇用・育成する場合、人件費や教育費、維持コストは膨大になります。MSSを活用すれば、必要なサービスだけを選べるため、コスト効率が高まります。
デメリット・注意点
- 未知の脅威への対応力は限定的
MSSは予防に重点を置くため、侵入後の対応には限界があります。MDRとの併用も検討しましょう。 - 責任範囲の明確化が必要
インシデント発生時にどこまでがMSS事業者の対応範囲か、事前に明確にしておくことが重要です。
MSSサービスの主要機能:セキュリティ運用をどう効率化する?
MSSは、企業のセキュリティ運用を効率化し、リスクを最小限に抑えるための多様な機能を提供しています。ここでは、多くのMSSで提供される代表的な3つの機能を紹介し、それぞれがどのように企業の課題解決に貢献するのかを解説します。
セキュリティ機器の24時間365日監視・運用
MSSの中核となる機能です。専門のアナリストがファイアウォールやIDS/IPSなどのセキュリティ機器を24時間365日体制で監視し、異常な通信や攻撃の兆候をリアルタイムで検知します。
障害発生時には、原因の切り分けや設定変更の代行も行い、機器の安定稼働とセキュリティレベルの維持を支援します。これにより、企業は常に最新のセキュリティ状態を保ちつつ、運用負荷を大幅に軽減できます。
脆弱性診断・管理とセキュリティ情報の提供
MSSでは、定期的な脆弱性診断を通じて、システムに存在するセキュリティ上の弱点を可視化し、具体的な改善策を提示します。
また、世界中で発生している最新のサイバー攻撃や脆弱性情報などを収集・分析し、自社に関連する脅威情報をタイムリーに提供。これにより、企業は受け身ではなく、「プロアクティブなセキュリティ対策」を講じることが可能になります。
インシデント発生時の一次対応と報告
セキュリティインシデントの兆候を検知した際、その内容を分析し、緊急度を判断します。緊急性が高い場合には、あらかじめ定義された手順に基づき、不正な通信の遮断や対象機器の隔離といった一次対応を実施します。
その後、インシデントの内容や影響範囲、対応状況などをまとめたレポートを迅速に提出。これにより、企業は被害の拡大を防ぎつつ、関係者への説明責任も果たすことができます。
失敗しないMSSサービスの選び方:導入成功のためのチェックポイント
MSSの導入効果を最大化するには、自社の課題や目的に合ったサービスを慎重に選定することが不可欠です。以下の4つのチェックポイントを押さえることで失敗のリスクを最小限にします。
自社のセキュリティ運用課題と委託したい業務範囲の明確化
まず、「なぜMSSを導入するのか」という目的を明確にすることが重要です。
- リソース不足の解消
- 特定の機器の運用代行
- コンプライアンス要件への対応
など、目的を具体化することで必要なサービス範囲が明確になります。そのうえで、監視対象の機器、ログ分析の範囲、レポートの内容など、委託したい業務範囲を詳細に定義します。
対応可能なセキュリティ機器・サービス範囲、SLAの確認
MSSベンダーによって、対応可能なセキュリティ製品やサービス範囲は異なります。自社が現在利用している、あるいは導入予定の機器に対応しているかを確認しましょう。また、SLA(Service Level Agreement)において、インシデント検知から通知までの時間、対応時間、レポート提出頻度などが明記されているかも重要な評価ポイントです。
ベンダーの技術力、実績、サポート体制の評価
信頼できるMSSベンダーを選ぶには、以下のような観点でも評価しましょう。
- セキュリティアナリストのスキルレベルや保有資格
- 同業種・同規模企業への導入実績
- インシデント発生時の対応体制
- 信頼できる第三者機関からの評価や認定
これらを総合的に確認することで、安心して任せられるパートナーを見極めることができます。
サービス内容とコストパフォーマンスの比較検討
提示された見積もりが、自社の要件をすべて満たしているかを確認します。価格だけでなく、提供されるサービスの質、SLA、サポート体制などを総合的に評価し、コストパフォーマンスが最も高いベンダーを選定することが成功の鍵となります。
MSSの最新トレンドと今後の展望
セキュリティの世界は日々変化しており、MSSもその変化に対応して進化を続けています。ここでは、MSSの最新トレンドと今後の方向性を理解し、将来を見据えたサービス選定に役立てるためのポイントを紹介します。
AI・自動化による運用効率化
AIを活用したログ分析やアラートの自動分類により、誤検知の低減や対応スピードの向上が実現されています。これにより、アナリストはより高度な判断・分析業務に集中でき、全体の運用効率が向上します。
ゼロトラストとの連携
ゼロトラストアーキテクチャの普及に伴い、MSSも「すべてのアクセスを検証する」前提での運用に対応しています。ID管理やデバイスの状態監視、動的なアクセス制御など、より包括的なセキュリティ運用が可能になります。
クラウドネイティブ環境への対応
ビジネスにおけるクラウド活用が進む中、MSSも従来のオンプレミス環境だけでなく、AWSやAzure、GCPなどのパブリッククラウド環境や、Kubernetes、サーバーレスといったクラウドネイティブ技術に対応した監視・運用サービスを提供。オンプレミスとクラウドのハイブリッド環境でも一貫したセキュリティ体制を構築できます。
まとめ|MSSは企業のセキュリティ運用の最適化と負荷軽減を実現
本記事では、MSSの基本から他のセキュリティサービスとの違い、メリット、選定ポイント、そして最新トレンドまでを解説しました。
MSSは、ファイアウォールをはじめとするセキュリティ機器の専門的な運用・監視を代行することで、企業のセキュリティ運用負荷を大幅に軽減し、全体的なセキュリティレベルを向上させる効果的なソリューションです。
巧妙化するサイバー攻撃に対抗し、限られたリソースを最大限に活用するためには、信頼できるMSSパートナーとの連携が不可欠です。自社の課題を明確にし、本記事で紹介したポイントを参考に、最適なMSSを選定することで、安全で安定した事業運営を実現してください。
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